FDAがPfizer-BioNTech社のCovid-19ワクチンを正式承認
きゃんです。
FDAが8月23日にPfizer-BioNTech社のCovid-19ワクチンを正式承認しました。
これまでは公衆衛生上の危機への対応のため、緊急使用承認という扱いでしたが、これで普通に市場に出回っている医薬品と同様にその有効性と安全性についてFDAの審査が完了し、承認されたことを意味します。
医薬品の承認のためには、非常に複雑かつ広範なデータの提出が求められます。
具体的には原材料の品質試験、経時的な品質の変化、安定性の保証、生産の手順、出荷にかかる規格値、生産設備への査察、非臨床試験における毒性検査、臨床試験による有効性・安全性の確認、臨床試験が適正に行われたか確認するための実地調査などです。
FDAの審査基準は世界最高レベルに厳格です。そうしたデータの提出と精査を経て、今回の正式承認に至っています。
今回のPfizer-BioNTech社のCovid-19ワクチンで一番のポイントは、安全性でした。有効性については報道でもある通り、90%以上の有効性があり問題ありませんが、新規の作用機序(mRNA; メッセンジャーRNA)であることから安全性について特に注目されていました。
有効性や安全性を実際に人に投与して確認するステップが臨床試験です。臨床試験で人に治験薬(調査中の医薬品の候補)を投与する前には、非臨床試験(動物実験)などで安全性が十分に確認された上で行われます。ただ、動物と人では体の構造が異なりますので、人体へ投与した際の安全性は臨床試験で確認する必要があります。
臨床試験の安全性データの要約がFact sheetに記載されています。
Pfizerは2つの臨床試験を実施しています。
Study1(BNT162-01試験)は18歳−55歳の60名を対象とした投与量の増量試験です。
Study2(C4591001試験)はやや複雑な試験デザインですが、プラセボ(偽薬)対照、至適投与量探索、有効性試験で12歳以上の約46,000名が参加しました。その4,6000名の内訳は以下の通りです。
43,448名が16歳以上 (21,720名がワクチン実薬、21,728名がプラセボを接種)でした。
そのうち、16歳または17歳(未成年)の人数は 138名(ワクチンの実薬を接種)、145名(プラセボを接種)でした。
また、2,260名が12歳から15歳でした(1,131名がワクチンの実薬、1,129名がプラセボを接種)。
試験参加者は男性が50.6%、女性が49.4%でした。
83.1%が白人、9.1%が黒人かアフリカ系アメリカ人、28.0%がヒスパニック/ラテン系、4.3%がアジア系、0.5%がアメリカンインディアン/アラスカ原住民でした。
臨床試験における安全性情報は、重症度(Severity)によって軽度(Mild)、中等度(Moderate)、重度(Severe)の3つに分類されます。重症度は症状の程度を表します。
また、重篤度(Seriousness)によって非重篤、重篤の2種類に分類されます。
重篤度とは、死にいたるような重篤な状態かどうかを示します。重篤な有害事象(Serious Adverse Events)は、治療のための入院が必要とされる、後遺症が残る、死の危険がある、死亡した、などの基準があります。臨床試験の安全性情報で最も重要視されるのが、この重篤な有害事象です。臨床試験では、こうした重篤な有害事象が発生した場合、その有害事象が未知のものか既知のものかに応じてFDAへの報告基準日が決められており、迅速にデータが収集されます。一般に、重篤な有害事象が頻発する場合、臨床試験がFDAまたは開発者側の判断で中止されることがあります。
Study2の結果、少なくとも1回目の投与を受けた16歳から55歳の参加者のうち(Pfizer-BioNTech COVID-19 Vaccineを10,841名、プラセボ(偽薬)を10,851名が接種)、1回目の投与から2回目の投与の最大 30日後までの期間において、重篤な有害事象は、ワクチン接種者の0.4%、プラセボ接種者の0.3%で報告されました。
中でも、虫垂炎が12名の参加者で重篤な有害事象として報告されました。12名のうち8名がワクチン接種者で、4名がプラセボ接種者でした。ワクチン接種者の方が多いですが、虫垂炎がワクチンとの因果関係があるかを決定するには不十分でした。
その他にワクチンとの因果関係を示唆する、重篤な有害事象(神経学的、神経炎症性、血栓性事象を含む)の特定のカテゴリーについて、ワクチン実薬とプラセボ投与者の間で注目すべきパターンや数値の不均衡はありませんでした。
上記のように治験薬との因果関係の有無(Relativeness)が判定されます。その有害事象(Adverse Events)が治験薬との因果関係があり、と判断されるとその有害事象は治験薬が原因で引き起こされたと判断されます。一方、例えば臨床試験の参加中にたまたま自動車事故にあって骨折した場合など、治験薬が原因ではないと考えられる場合には、因果関係なしと判断されます。上述の虫垂炎はプラセボ接種者でも発生していることから、恐らく、治験薬との因果関係はなく、4,6000人も参加者がいるので、偶然に発生したものだろうと予想できます。
また、上述の通り、プラセボ投与を受けた人とワクチンの実薬投与を受けた人の間で、重篤な有害事象の発現頻度や内容に偏りがなかったということは、治験薬との因果関係がある重篤な有害事象の発生は、非常に稀であったと言えると思います。
上記の結果から、FDAはPfizer-BioNTech社のCovid-19ワクチンについて「リスクがベネフィットを上回る」と判断したものと考えられます。
重要なのは、いかなる医薬品においても副反応(医薬品と因果関係のある有害事象)があり、ゼロリスクの薬などこの世に存在しないことです。
コロナに感染して重篤化、死亡するリスクと、ワクチンを接種してそうしたことを防げるベネフィットとワクチン接種による副反応のリスクを天秤にかけて、ベネフィットが大きいということです。
- “mandatory"「強制、必須」
- “serious adverse events"「重篤な有害事象」
It is mandatory for Pfizer Inc. and vaccination providers to report the following to the Vaccine Adverse Event Reporting System (VAERS) for Pfizer-BioNTech COVID-19 Vaccine: all vaccine administration errors, serious adverse events, cases of Multisystem Inflammatory Syndrome (MIS), and cases of COVID-19 that result in hospitalization or death.
https://www.reuters.com/world/us/new-york-ends-covid-19-mask-requirements-vaccinated-people-2021-05-17/
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